2006年5月21日総会にて(大和市保健福祉センター)

大和成和病院心臓外科・副院長  小坂眞一

コミュニケーションの取れる医者がメスを入れる

 今日は南淵先生の講演が1時間あるということで、ぜひ聞いてみようと思って仲間として来たんです。講演の前に「最後のほうに少ししゃべってくれ」という連絡が来ました。横に座っている女房が落ち着きがなくなって、私がまた変なことを皆さんの前で言うんじゃないかと心配してるんです。
 きょうここに来ましたら、私が手術した方も何人かいらしてお元気そうで非常に良かったなと思います。それから南淵先生は昔に比べると話がすごく分かりやすくなりました。やっぱり手術と同じで、こうやって人前でしゃべるのも、テレビを含めて場数が必要なんだなと。役者という世界もあると思うんです。きのうはテレビで松本幸四郎がいろいろしゃべっていましたが、まさにそうなんだなと思うんです。

 私が思うのは、結局、皆さんは病気のことを本当に勉強したわけじゃないんですよね。医学部に6年間行ったわけでもないし、お医者さんの仕事を勉強したわけじゃない。ただ、お医者さんと違うのは、実際にその病気を自分が体験していることがものすごく大きいのです。私もテレビに出て余計なことを言ってますけれども、私自身は心臓の手術は受けたことがないのです、別の手術を受けたことはあるのですが……。本当にここがどれぐらい痛いかとか、いつからどうなのかとか、ペースメーカーがここに入っているとどれぐらい違和感があるかとか、よく分からないのです。
 ただ、人間が持っている能力で一番優れているのは言葉です。イルカも多少しゃべっているし、もしかしたらおサルさんはもう少ししゃべっているかもしれないけれど、言葉を使ってものを表現したり、理解したり、共感するというのは人間だけです。私はいつも思うんです。外来で患者さんと話をしていて、いかに患者さんの不安を聞いて説明をうまくできるかどうか、そこ1点なんです。「大丈夫だよ」と言って肩をたたいて患者さんは帰るのですが、3分後にはやっぱり不安になる。理論がなければ、だめなんです。もうちょっと思い切って言っちゃいますと、要するに理屈がそこにないと患者さんは本当には納得できないと思うのです。その理屈をきちんと筋道を立てて教えてあげるのがお医者さんのもう一つの仕事なんじゃないかな。
 例えば手術をやる前、同意書を書いてもらうのに説明します。そのときに患者さんにどれぐらい「あなたが受ける手術はこういう内容で、こういうことが用意されていて、結果的にはこうなります」ということを教えられるかどうかが、今や心臓外科の「切った張った」だけじゃなくて重要な能力になってきたなと。その中にいる最高峰がやっぱり南淵先生じゃないかと思っています
 今、日本の心臓外科医といわず、外科医がみんなそういうふうになってきました。とにかくコミュニケーションの取れる人でなければ、人の体にメスを入れてはいけない。手が器用で目が良くてだけじゃ、全然駄目です。プラス、手術の前や手術の後に、患者さんとコミュニケーションをきちんと取れる人でなければ。またそれが嫌いな人は「これは向いてないな。切るだけの人間じゃ駄目だな」と思います。ちょっと長くなりましたけれど、そう思っています。(拍手)