菅原重忠先生(大和成和病院循環器内科副部長) 

2010年5月16日(藤沢市民会館小ホール)

演題「カテーテル治療の実際」

心臓は1日10万回拍動、拍出量は7,000リットル

 皆さんこんにちは。菅原重忠と申します。今、火曜日と木曜日に外来をやっております。外来以外の日は主にカテーテル検査や治療を行っております。今日はよろしくお願い致します。(拍手)
 最初に自己紹介をします。現在、大和成和病院に勤務してから3年になります。もともと自分は千葉の片田舎の九十九里に近い茂原市の出身で田舎者です。親類を合わせても僕が一族初代の医者で、長男で頑張っております。大学病院には2年弱しか勤務していないので博士号などは持っていないんですが、患者さんを診るということで臨床一本で13年以上やってきました。
 今日は僕の専門分野であるカテーテル検査と治療についてお話をします。あとは心臓というものについての一般的なお話や心臓病というものの解説を含めて、できるだけ皆さんにわかりやすいように説明するつもりです。よろしくお願いします。(拍手)
 まず全身の血液は心臓から出て心臓に戻っていきます。こういう画像で見ると青い色が静脈、赤い色が動脈です。心臓は肋骨や胸骨、背骨によって囲まれていて自分の握りこぶしよりもやや大きいぐらいの大きさです。胸の真ん中からやや左寄りにありますが、真ん中と言ってもいいかもしれません。食道や気管、気管支。これは肺などの重要な臓器が周囲にあります。胸が痛いといって内科の外来に来られた場合、こういう周辺の臓器の痛みも鑑別する必要が出てきます。
 では心臓は1日に何回拍動し、約何リットルの血液を出すのでしょうか。心臓が1分間に70回働く方で、1日約10万800、約10万回の心拍があります。拍出量としては7,000リットルという計算になります。幼少期の心拍数が70よりはやや速いので、生涯80年ぐらいで計算すると約40億回ぐらい心臓が収縮するということになります。
 これは皆さん、もう見たことがあると思いますが胸部レントゲン写真です。外来でもよくこれを並べてお話をすることがあります。レントゲン写真というのは心臓の大きさや輪郭、形、あとは胸にたまったお水、すなわち胸水と言われているものなどの有無がわかります。心臓の動きがいいかとか、血管が詰まっているかということなどはこのレントゲンからはよくは分かりません。胸の幅に対して心臓の幅がどのぐらいの比率かということを50%を基準にして、それより大きいことを心臓が大きいなんていうふうに健康診断などで言われます。よく心臓が「肥大」していますとかいう言葉を使いますが、専門的には肥大というのは壁が厚くなることを指しますので、大きくなるのは「拡大」というほうが正しい言い方です。

心臓の形と機能――心房と心室、そして4つの弁

 心臓は心膜、心のうとも言います。心膜に包まれていて、心膜を開くとちょうどこういうような心臓が顔を出します。僕ら循環器内科という科はこういう心臓の実物を実際に目の前で見て治療することはないんですが、こういう画像の形をしています。心臓の表面には赤い線、これは冠と書いて冠動脈。あとは逆に心臓の筋肉から血液を吸い取ってくる冠静脈という血管が張り巡らされています。
 これは心臓を断面にした画像です。心臓を切ると心房と心室という部屋が四つ、左右ともに二つずつあります。ここで弁膜症の手術をされた方々もいると思いますが、心臓には区画する場所を一方通行に部屋を仕切る僧帽弁、大動脈弁、三尖弁、肺動脈弁という四つの弁が存在します。
 これはまた動いてる画像が出てきました。ぐるっと回ってこれは肺から心臓に戻ってくる左心房というところから画像が始まります。左心房に入った血液は今これは僧帽弁です。僧帽弁というところを通って向こう側、これが左心室に入ります。左心室からまたもとを見ると僧帽弁が開いています。向こう側に大動脈弁という弁が開いていて、そこから勢いよく外側というか大動脈のほうに血液が出ています。上から大動脈弁を見下ろすと、今のように三つの弁がぱくぱくとしています。
 もう1回見ましょう。これは僧帽弁。弁膜というのはもともとテントの膜のように非常に強靭な組織です。腱策というちょうどロープのような部分で心臓とがっちりとくっついているわけです。一生涯の中で40億回心臓が動くということは、40億回これが血液を通すということになります。

動脈は年齢とともに老化し、弾性、柔らかさと柔軟性を失う

 これから冠動脈の話になります。特に我々が狭心症をカテーテル治療で治すことがほとんどですので、冠動脈について説明します。心臓の外壁を王冠状に―王冠というのはコロナル(coronal)、冠動脈はコロナリー・アルテリー(coronary artery)という名前になります。冠状動脈、冠動脈は心拍出量の約20分の1の血液を心筋に供給することで活動に必要な酸素を供給しています。運動時には最大1リットル/分、1分間に1リットル近い血液が供給されます。特に筋肉の厚い左心室での心筋の酸素消費量は、全身の平均22%に対して70%と大きく、冠動脈の血流は極めて重要です。それだけ狭心症になりやすいというか、虚血(血液が足りないこと)になりやすいということです。
 この画像は入院してカテーテル検査をしたときに見たと思います。これは冠動脈造影の所見です。先ほど外から見た血管を我々は内側から中に造影剤を通すことで血管の影絵を見ているような状況です。ちょっと見えづらいかもしれませんが、ちなみにこちらは比較的きれいな血管を出したつもりです。こちらは汚い血管というか、汚いというと失礼にあたりますけれども、血管がぼろぼろと非常に細くなってしまっています。ちなみにこちら側の方はバイパス術になった方の画像です。
 これも動いている画像です。血管の中がこんなふうに動脈硬化になっていく画像です。動脈硬化というのを説明します。動脈硬化というのは動脈が厚く肥厚して硬くなって弾力が失われた状態を言います。動脈は年齢とともに老化し、弾性、軟らかさと柔軟性を失っていきます。
 これは動脈硬化が進展していく様子が画像になっています。この赤いUFO状のものは赤血球です。最初この下側の壁のちょっと黒くなったところ、これが血管内膜がちょっと傷ついたところ。ちょっと傷ついたというのはどういうことかというと、コレステロールの影響や糖尿病の影響、喫煙の影響などで血管の壁が障害された、少しやられた、そういうところに黄色い球で脂質と言われている脂分です。これが沈着してくっついていくと、そこに炎症細胞というリンパ球と言われてる白血球の一部がここで活動を起こして炎症を起こす。それでここに黄色いプラークと我々が呼ぶ、かすがこういうところにたまっていく様子の画像です。
 これは今のを大きな絵にしたものです。こんな感じにたまっていきます。この血中の脂肪成分の中に、ここには書いてないですけれどもLDLコレステロールという、最近は悪玉コレステロールというものが非常に大きくかかわっています。これが過剰になると、いわゆるどろどろの血液になって血管の壁に悪玉コレステロールがくっつきやすくなってプラークができやすくなるということです。

不安定プラークは心筋梗塞を起こしやすい。冠動脈危険因子とは?

 これは学問的なことですが、安定プラークと不安定プラークというものを書いています。不安定プラークというのは、先ほどのプラーク、中にたまったかすの表面にある膜です。線維性の被膜と言われています。その被膜が非常に薄くて、いつぶちゅっとつぶれて出てきてもおかしくないような状態の軟らかいようなプラークを不安定プラーク、粥腫という汚いにきびのつぶれたような物体が出てきます。それに対して安定プラーク、安定粥腫というのは、表面にある被膜が非常に厚くなって容易にはぶちゅっとつぶれてこないような状態です。
 実際にはこういう不安定プラークというものが心筋梗塞に非常になりやすいと言われていますので、カテーテル治療という方法じゃなくても、薬を飲むことによってこういう不安定プラークを安定型に変えていくような治療。これはコレステロールを徹底的に下げるという治療や、血圧や糖尿病をコントロールするということでこういうふうに安定化させるという治療も非常に大事だと言われています。
 これは冠動脈危険因子の説明です。冠危険因子は冠動脈に病気を起こさせるような原因です。これは二つに分けています。自ら避けることのできないもの。年齢であったり加齢現象、男性に多いキコウ、冬場に多い、若年性の若い方でも家族の中で遺伝的にそういう病気になりやすいような方。また閉経後の女性と書いてありますがエストロジェンという女性ホルモンです。抗動脈、抗というのはそれに対するという意味で動脈硬化を起こしにくい作用をエストロジェンという女性ホルモンが非常に役立っています。これが閉経後に少なくなってくると動脈硬化が非常に早く進んでしまうような場合です。同じようにこれは骨粗鬆症(骨が弱くなる)ともすごくかかわりがあると言われています。
 あとは自分の心構えによって、または治療によって避けることができるもの。高血圧、高脂血症、たばこ、糖尿病。高尿酸血症というのは痛風のことです。肥満。あとは多血症。多血症というのは血の気の多いことですが、たばこを吸う方は血が非常に濃くなります。採血をするとヘモグロビン数字が通常15ぐらいが18とか19とか。特にヘビースモーカーは多血症の方が非常に多いです。あとはストレス、生活行動パターン、美食とかアルコールも書いてあります。こういうものが冠危険因子と言われています。
 ここに同じようなことが書かれています。A型人間というのが書いてあります。A型人間というのは血液型がA型ということではありません。B型とかC型というのは言わないんです。O型とも言わない。Aというのは、Active(活動的)、Aggressive(攻撃的)、Ambitious(野心的)、Angry(怒りっぽい)という頭文字のAをとって、攻撃的な方はA型の人間と言うわけです。こういう方は非常に交感神経活性が高くて血圧が上がりやすい。血糖値や脂肪も上がりやすいということで冠動脈の病気の非常に大きなリスクだとも言われています。
 これは海外での病気のリスクで調査の結果です。特に高血圧、たばこ、高脂血症。こういうのが合わさると27倍の危険があるよということです。1989年にカプランという学者が動脈硬化による病気、特に狭心症や心筋梗塞といった病気の発症に、上半身肥満、糖尿病、高血圧、高脂血症を併せ持つ病態が非常にかかわっていると言って、こういうのを死の4重奏(デッドリー・カルテットdeadly quartet)という言葉で名づけました。
 上半身肥満というのは内臓脂肪とも大きくかかわります。ヒップよりもウエストのほうが大きいようなタイプ。ご自分で測ってみるとわかると思います。ウエストのほうがでぶっとしておしりのほうが小さい。女性は骨盤が大きいのでヒップの大きい方が多いんですが、男性でおしりよりウエストが大きい方というのはこれに入るということで注意してください。

狭心症の分類 発作誘因で分類する労作性狭心症・安静狭心症

 これから狭心症の話に移ります。狭心症は幾つかの分類方法があって聞いたことがあると思うんですが、それを解説します。まず発作誘因の機序から見た分類ということで労作性狭心症。労作というのは運動、活動によって発作を生じる。動脈硬化によって動脈の狭窄が75%以上に進行した場合に起こりやすい。
 それに対して安静狭心症というのは特別に労作を行っていない、運動していなくても突然発作を起こす場合です。動脈硬化による著しい狭窄の場合にも起こりますが、ほかに血管攣縮、スパズムという血管がきゅっと縮まることによっても起こります。
 あとは臨床経過から見たような分類ですが、安定型狭心症。最近3週間、症状や発作が安定化しているような狭心症のことは安定化狭心症と言います。それに対して不安定狭心症というのは、最近3週間以内に発症した、最近悪くなってきた狭心症で、薬の効きが悪くなったような場合も同じです。心筋梗塞に非常に移行しやすいということで、近年ではこういうのを急性冠症候群という概念がこれに近いと言われています。
 これは発生機序による分類です。器質性狭心症。これは動脈硬化による狭心症。先ほどのvasospastic angina というのは血管がきゅっと縮まって起こる狭心症のことです。これが絵です。こちらが動脈硬化によって血管にかすがくっついて出来上がってくる狭心症です。こちらは一見もともときれいになっているように見える血管が、ある条件できゅっと縮まる。大体深夜から早朝にかけてこういうことが起こりやすいんですが、発作が起こります。ニトログリセリンをなめると比較的速やかに治るというのがこういう狭心症です。狭心症の症状です。ここにいらっしゃる皆さんのほうがよくわかってると思いますのでしゃべりませんがこういう症状です。

心筋梗塞と狭心症の違い、急性冠症候群とは?

 心筋梗塞と狭心症の違いです。心筋梗塞というのは血流が途絶えてから心筋が壊死してしまった状態です。時間が長く続けばもちろん心筋梗塞に至るし、発作がすぐに治まれば狭心症で終わるということで非常に近いんです。そういう中で急性冠症候群というものがあります。最近、不安定狭心症や急性心筋梗塞のようにプラークがぶちゅっとつぶれる、破たんすることで血栓が関与して起こることを同一の原因として考えて、総称して急性冠症候群と呼ぶようになりました。
 例えばずっと以前から血管が1本詰まっている方は恐らく皆さんの中にもいると思います。激しい運動をすると多少苦しくなるけれども、日常生活は問題ないというような状態。これは安定狭心症です。こういうのは急性冠症候群とは言いません。今、まさに血栓やプラークがぶちゅっとつぶれて詰まりかかっているような状態を急性冠症候群と名づけて、最終的に心筋に障害が起こる、壊死が起こる。これが多いか少ないかで狭心症か心筋梗塞の違いになるという考え方です。

カテーテル治療の歴史――フランスのベルナールが最初

 これからようやく本題のカテーテルという話になっていきます。まず心臓治療の歴史を勉強してきました。カテーテルというのは細い管のことを指すわけです。実際には2000年前、古代ローマ時代に青銅製のカテーテルチューブが遺跡から発掘されているそうです。恐らく膀胱結石や尿管結石を取るのに使われたと考えられています。医学が飛躍的に進歩した19世紀、ギロチンで首を切られた罪人の心臓が、切られた後に電気刺激を加えるとぴくぴくと拍動が再開することがわかっています。こういうことが後のペースメーカーに発展したわけです。
 心膜の切除などの方法もこの時代に本格的に行われ始めています。コッホやパスツールは昔の有名な学者です。病原菌というものが立証されたのも19世紀になってからです。1938年に先天性心疾患への心臓外科手術が始まって、1951年に日本でも心臓外科手術が開始。ペースメーカーは1958年に世界初の埋込型ペースメーカーが埋められています。
 どうしてこれを出したかというと、カテーテルの歴史はこれに比べると非常に新しいものです。心臓カテーテル。これはフランスのベルナールが、これは19世紀ですが馬の頸静脈に、カテーテル、水銀温度計らしいんですが心臓まで突っ込んで温度を測ったのが初めてじゃないかと。1929年にドイツのフォルスマンという、これも有名な話なんですが、25歳で日本でいうと研修医のような立場の人ですが、レントゲンを撮りにいって心臓にたどり着いていたというのを発見したという写真が残っています。でもこれは実際に当時の偉い先生には、こんなばかなことをやるのは頭がおかしいんじゃないかと言われて、この人はこの業界から去ってカテーテルはもうやめてしまいました。

77年から始まった風船治療、ステント治療は86年から

 1941年にリチャーズとクルナンがカテーテル研究を本格的に始めて、1956年にようやくリチャーズとクルナンにノーベル生理学・医学賞が与えられました。同時に最初にカテーテルを入れたフォルスマンにも20年、30年経過したところでノーベル生理学・医学賞が授与されたと、ようやく認められたということです。
 これがフォルスマンが自分にカテーテルを入れた当時です。左の腕からここに黒い線が入ってます。これがカテーテルです。65センチ、目測で入れていったらしいです。入ってどこに行ったのかわからないからレントゲンを撮りにいってぱっと撮って現像してみたら、ちょうど右心房に当たる部分にカテーテルが当たった。これは歴史的な実験というか、自らの実験だと思います。
 1977年になってようやくカテーテル治療、風船治療がドイツのグルンツィッヒという先生によって始められました。その後は最近になって結構新しいです。1986年にステント治療が開始されて、2002年にようやく薬剤溶質性ステントという薬を塗ってある最新型のステントが登場して、2004年から日本でも臨床開始が使用されています。
 これはカテーテル治療の画像です。こんな画像を見たことがあると思います。血管が細くなっている部分がこちらに見えてます。治って太くなってます。これは20分ぐらいで終わってしまいます。スムーズにうまくいくと大体こんなもので治ってしまいます。カテーテルをどこから入れるかというのは皆さんも気になるところだと思います。かつては足の付け根から入れることが主流でしたが、現在は腕や手首から行うことがほとんどです。
 挿入部位を決めるにはそれぞれ利点や欠点があって、検査や治療のメニューや病気の症状からでも変わってきます。例えば血管の狭窄部分を削る治療はロータブレーターと言います。また何年も長い間詰まっているものをこじ開けるような治療の場合は太いカテーテルが必要ですので、そういう場合には足の付け根になることが多いです。先ほどの画像のように20分ぐらいで終わるような治療はほとんど手首から行われます。検査については、手首から行う施設と、ひじから行う施設があります。大和成和病院では大体ひじから行っております。
 これは冠動脈造影です。実際のものをだんだん出していきます。左右の冠動脈を選択的にカテーテルを入れます。造影を行うためにいろいろ形があります。人の名前のついたカテーテルだったり。自分で形を開発してそれなりに数が出れば自分の名前をカテーテルにつけることもできます。実際に名前のついてるカテーテルもたくさんあります。こういうカテーテルです。診断に使うカテーテルは大体1.6ミリぐらいの細さしかありません。非常に細いです。
 これは小道具です。局所麻酔だったり、針があったり。シースというのは、カテーテルというのは細い管ですが、これを直接動脈に入れると動脈との摩擦の関係とか出血の関係で操作がしづらいので、こういうシースと言って外筒に値するようなものをまず先に入れます。あとはこういう造影剤を注入するような道具を使います。

血管の狭窄――75%以上狭い場合を有意狭窄という

 次に血管が狭いというのはこういう冠動脈造影の画像から我々は決めていくわけです。狭窄というのは一言に言っても狭いというのはちょっと細くても細いとなってしまいます。実際には75%以上狭い場合を有意狭窄と言います。有意狭窄というのは狭心症として意味のある病的な狭窄と見なします。
 画像は2次元的な平面画像です。例えば血管の造影の所見というのは影を見ているわけですから、上から見たときに内腔があいてる部分というのは、常にあいてる部分が斜めに見えてしまいますから、多方向造影といって下から見たり、上から見たり、わきから見たりしないと、実際に血管がどんなふうになっているかというのがわからないわけです。カテーテル機械が頭の上を左へ行ったり右へ行ったりしてるという理由は、こういういろんなところから見て、血管がどのぐらい細いかというのを判定していくことになります。
 同じように血管の手前が太くて先が細くて狭い場所がずっとあった場合には、こちらの手前と先の平均を出そうという、こういう狭窄度で血管が細いか太いかを決めていきます。しかしながらこういう狭窄度というのは医者の見る目によっても非常に変わりますし、経験知によっても変わります。
 実際には狭いわけですけれども、経験知を積んだ医者が見るとそれが詰まりそうだとか、これはまだ詰まりそうじゃないんじゃないかということが何となくわかるといわれていますが、なかなかわかるようになるまでには私もまだ経験が足りません。臨床的な勘というのが大きくて、そういう基準に合わせて血管を広げるという治療が行われているわけです。

血管の中にワイヤが通らないとカテーテル治療は出来ない

 これは用語の問題です。カテーテルインターベンションというのは、我々の専門用語で僕らは「PCI」と言ってます。昔はPTCAという言葉でありました。経皮的冠動脈形成術です。言葉のことはちょっと難しいので実際に広げる手順をお話しします。
 まずガイディングカテーテルと言って風船やステントを通す管を足のほうから、カテーテルをまず持ってきて血管の付け根にちょこんとかけるわけです。このガイディングカテーテルというのは内腔が2ミリ弱ぐらいのカテーテルです。その中を通して造影剤を出すと。冠動脈にぴったりと合うように体格や血管の大きさや形に合うようにいろんなものがあって、こんなふうにサイズがあるわけです。ぴったりここに入れます。
 次にガイドワイヤと言って、見た目には非常に細い、髪の毛の先ぐらいの細さに見えるかもしれませんが、細いガイドワイヤを血管の中にするすると入れていきます。ここがまさに技の見せどころで、1メートル先の細いガイドワイヤの先端の感覚を指先で感じ取れと言われるぐらい、繊細な作業で血管を選んでいきます。
 もちろん完全に詰まってしまっているところを通すような場合には、それなりの難しさがあります。こういう針金(ワイヤ)も金属性ですけれども、非常に軟らかい細いものから、指に刺すと血が出るんじゃないかと思うぐらい硬いようなワイヤ。これは石みたいに硬くなった場所をぶすっと突き刺すように使うようなワイヤです。そういうものを駆使して血管を通すわけです。血管の中にワイヤが通らないことにはカテーテル治療というのは成り立たないと。ここがまず作戦成功のための第1条件です。

血管の中にたまったカスが。広げたときに流れてしまう危険性がある

 これは風船です。広げる前の風船というのはちょうど閉じた傘のような形になっています。実際にこれを広げるとこんなふうに広がります。風船とはいっても丸いわけじゃなくて血管の太さとぴったりマッチするような、細いものでは1ミリぐらいから、太いものでも心臓の場合には5ミリぐらいまでの大きさでこういう風船が決められています。より大きく膨らませば、より大きな血管になるわけで、いい出来栄えにはなるんですが、もちろんあまりにも大きくすれば血管が破れてしまうというリスクといつも向かいながら我々は血管を広げています。
 これはシェーマの絵です。血管の中に閉じた風船を持っていって中で広げます。昔はこういう風船治療だけの時代は、一度広げた血管もまた狭くなってしまう再狭窄というものが非常に多かったので、最近ではステントの時代ということになり、ステントが非常に使われています。
 これがステントです。これは拡張前、広げる前です。ちょうど先ほどの風船の表面に閉じた傘の骨組みがくっついているような状態。これを広げる場所に持っていって広げるわけです。中の風船だけをしぼませて回収してくると、血管の内側にこういう金属の内張りが置かれるわけでこういう治療です。これはステントがぐっと曲がっているところです。昔のステントは非常に硬くてこういう曲がった血管には入らなかったんですが、今はかなり軟らかく曲がりに対応できるようなステントが開発されています。
 ステントの材質になります。これは金属です。金属の中でも生体適合性の高い、アレルギー反応があってはいけませんし、金属アレルギーの方もいるかもしれません。実際にはステンレススチールというもの、あとコバルトクロム、こういうものが使われています。風船はステントだけじゃなくて削り取る治療。昔はDCAで今はなくなりました。これは後で説明するロータブレーターという削る治療です。こういう治療がほかにも幾つかあります。
 カテーテル治療では血管の中にたまったかすが、広げたときに流れていってしまうんじゃないかという可能性を考えます。そのときに胸が苦しくなったりするわけです。これを予防する方法として、こういう末梢塞栓の予防用の風船、あとはフィルターというものがあります。プラーク。これは広げる場所の先に風船を膨らませて、その間に血管を広げて、ここにつぶれた豆腐のかすみたいなものが漂っているうちに、これを吸い取ってくる。これはそういう絵です。こういう治療法。吸い取られたかすです。こんなふうにして取られるわけです。
 こういうことをやると、向こう側にかすが飛んでいかないわけです。実際にはこういうことをやるときには20分で終わるようにはならなくて、もう少し時間がかかってしまったり、利点とともに欠点もあるわけです。実際にはこういうことをやるのは全体の10%以下だと思います。こういうことをやらなくても大体はうまくいきます。

石灰化した血管を削るロータブレーター治療

 これはロータブレーターと言って金属、ダイヤモンドを先端に加工してくっつけてあって、モーターを使って1分間に15万回転ですからすごい回転数です。受けられた方がいるかもしれませんが、歯医者で歯を削るときのあの音です。ぎーんという音。ああいう音がカテーテル治療室に響き渡ると。非常に音がひどくて音のないのがあったらいいんじゃないかと思うんですけど、石灰化した非常に硬い石のようになった血管をがりがりがりと削ってくる治療です。
 実はこういうことをやる治療というのは施設認定が必要で我が病院もできるわけですが、実際には全員の方にこういうことをやるわけじゃなくて。もちろんこういうのは簡単に血管を破ったりちぎれたりすることもあります。非常に危険なものでもあるわけです。ですから安全第一ということもあります。実際にはこういうのも10%ぐらいの割合の使用頻度だと思います。必要な方にのみ使うという治療になります。
 今日は画像を持ってきていない、動くものじゃないですけれど、これは血管の中を最近はよくのぞくことができます。実際に血管の中、冠動脈の中を見たわけです。血管の太さを実際に計測したり、実際に壁の中にくっついている円状のもの、これがプラークなわけです。プラークがどんなものかというのを見て、どんな治療がいいかというのを決めていったりする、こういう血管内をみるカテーテルというのは3分の1から半分ぐらいの治療の方で使いながらやっています。

心筋梗塞に絶大な効果を発揮するカテーテル治療

 あと症例を幾つか並べていきます。実際にこれは目の前で患者さんとやりながら撮った画像です。これは急性心筋梗塞の場合です。急性心筋梗塞というのは詰まってすぐ来るわけです。南淵先生を代表とする心臓外科の先生方が手術をされることもあるわけです。これは準備に時間がかかったり、段取りがあるわけです。カテーテル治療というのは即座に治療を行って、詰まりかかった場所をほんの15分から20分ぐらいで通してしまう。心筋梗塞には絶大なる効果を発揮するのがカテーテル治療だと思います。
 ここに見えているのはこちらに付け根があって、血管がちょうど付け根から2、3センチのところでぷつんと実は詰まっているんです。これ本当は血管がびゅーっとこの辺まであります。細いワイヤをするすると通していくんです。そうすると血流が少し薄く見えてきます。流れが少しずつ戻ってきます。ここにたまっている軟らかい、かすを次に吸い取るんです。吸い取った画像は出ていませんが。
 これは風船をかけてちょっと膨らませています。そうすると血管がぴゅーっと出てくるわけです。ここに少し淡い、透亮像と言って、実はまだここに血栓(血の塊)がたまっているわけです。こういうものをまた吸い取ったりして、先ほどの末梢塞栓予防用のものを使うこともあります。最終的にここにステントという内張りを置くと非常に立派な血管が1本出てくるという治療です。始まれば30分ぐらいでこういう治療を終えます。1本だけ詰まっているような場合にはほんとに劇的によくなって、4日ぐらいで元気になって退院する人もいます。
 これは不安定狭心症。狭心症の例です。実は先ほどお話にもありました、この病院でバイパス手術をかつて受けられていた患者さんが、胸が苦しいということで病院に来られた。向かって左側に映っている血管は自分の左冠動脈の画像です。付け根があってそこから実はVの字に、こちら側に1本、大きな血管が本来はあったわけです。下に向かって血管がもう1本あります。これは回旋枝と言います。
 こちら側の血管は実は昔に詰まってしまっていて、向かって右側の画像では左の胸の裏側、あばら骨の裏にある肩から出ている内胸動脈という、胸の裏にある血管をバイパスをされているんです。すっと真下に向かって下りていく。ここに胸の真ん中を針金で止めたのが見えてます。バイパスはきちんとつながっていた。どこが詰まってたか、詰まりかかってたかというと反対側です。今まで治療したことのなかった右側の冠動脈が詰まりかかっていました。
 ここがカテーテルの先端だとすると、すーっと弧を描いて流れているわけです。ちょうどこの肩の部分に狭窄が詰まりかかっています。あとはこの部分にも狭窄があって血液の流れがあまりよくない。流れが造影遅延と言いますが、ゆっくりなんです。胸が苦しいとおっしゃって、これはすぐさま治療をしました。ここに風船をかけて広げています。この方は治した後はごらんのように1本の太い血管がすっと出来上がったと。これも大体ここまで20分ぐらい。この方は反対側の回旋枝というところにも狭窄がありましたので、こちらも同時にステント治療を行って血管を太くして治してしまうと、二つ合わせて40分と。まあよかったです。

カテーテル治療とバイパス手術の組み合わせ

 これはまた心筋梗塞の例です。右側の冠動脈の流れが悪くなっておられます。この方の例はここにはいらっしゃらないと思うんですが、実は右側の血管が詰まりかかっていて、ぴゅーっと造影剤が流れてはいますが、非常に流れが乏しいんです。出来上がりを見ていただくとほんとにわかるんですが、非常に血管の流れが悪くなっています。実はこの方は反対側の血管、左側の血管も全体的に細くなってたんです。
 とにかく目の前に詰まりかかっている血管で苦しんでいる方ですから、これはステント治療ということで治療をすぐに行った。まずワイヤをするするとまた通して風船で広げる。今、風船をかけてる。そうすると流れを、これはステントを入れていますがこの部分が非常に太くなったと。ただ1カ所治療してもこの辺も細いんじゃないかとか、細いところがたくさんあるんです。
 こういう場合に全部治してしまうというので、この方は一気に全部やってしまったんです。ステントが実際には多く入りましたが、右の冠動脈1本はきれいに太くなりました。これも大体20、30分ぐらいで終わってしまう。でもこの方は左側の冠動脈については緊急事態じゃありませんので準備をして、これは南淵先生にバイパス手術をしていただきました。急性期の心筋梗塞はカテーテルでしのいで、もう1本の大事なほうはバイパスでしたという方の例です。
 これは非常に石のように硬くなってしまった血管を削るさまを見ていただきます。この方は血管のここが途切れています。ここも細くなっています。透析をされている方で非常に血管が硬くなっておられるので、先ほどのダイヤモンドの粉がついたバーで削ります。カテーテル室にはきーんという音が鳴り響いて、血管をぐいんぐいん削っています。削ると削っただけでも血管が大分太くなるんです。最終的にはステントというのはここを覆って出来上がりを見ると、1本の太い血管を作り出すという治療。これはカテーテル治療の実例でした。

カテーテル治療の問題点は再狭窄・長期の成績を残せない

 今までいいことばかりお話ししてきましたけれども、カテーテル治療には問題点も実はすごく残されています。今でこそ成績は大分よくなりましたけれども、やはりまた狭くなってしまう。何度もカテーテル治療を受けられた方で3回も4回もやってもまたなってしまう方がいらっしゃいます。慢性期の再狭窄ですね。薬を塗ったステントというものが2002年から使用されて成績は大分よくはなりました。ただ、立派ないい血管に1本ステントを使ってそれでも半年後にまた狭くなってしまう確率が5%ぐらいは残っているんです。
 そうすると3カ所も4カ所もやると、これがまた3年、4年たつとまたそこが細くなってしまうことが起こり得ると。今をしのぐ治療には一番いい治療だと思うんですが、長期間成績を残すためには不利ではないかと。これがカテーテル治療の難点だと思います。あとは治療の回数が多いということで入院の回数が多くなったり、トータルで考えるとお金が多くかかってしまうということも言われています。これは薬で見る場合と手術でやる場合。カテーテルの場合と手術の場合の利点と欠点です。
 我々というか、僕個人的にもなりますが、冠動脈バイパス手術の適用、僕らから考える適用。患者さんが手術にもちろん耐え得るという判断は非常に難しいんですが、何といってもやっぱり元気さがあるか。90歳でも元気な方と、70歳でも元気のない方はやっぱり随分違います。まず手術に対して勝ち残れるというか、やる気があるということです。
 あとはつなぐ先の血管があることも大事だと思います。あとは三枝(さんし)病変、3本一遍に細いとか、心臓の血管の付け根が細いとか。あとは病変長が長い。これはその病気の特徴です。ただ、この適用というのはほんとにいろいろな病院やいろいろな先生によっても実は違うところがあって、人によってはほんとにバイパスは要らないとか、カテーテル治療ですべて治せるとか、そう豪語して治療に立ち向かっているような僕らの先輩もいらっしゃるんです。

カテーテル治療か外科手術かを吟味するのが内科医

 これは僕が個人的な気持ちを書いたんです。できるかできないかということではなくて、やろうと思えば危険を冒してでも血管を広げることはできるんです。詰まってしまっているところを通すことができないことがあるかもしれませんが、大体通しさえすれば広げることはできます。ただ、これが本当に長期の成績がいいのかとか、危険を伴わないのかとか、僕ら循環器内科医にとってすごく難しい、カテーテルではこんな難しいと思うような治療でも、心臓外科の先生にとっては手術だったらすごい簡単だよという場合もあります。
 逆に心臓外科の先生方が2時間かかって3時間かかって手術するものを、我々は20分でできる場合もあると。だから、これはほんとにその場合、場合によって違うと。だからほんとはそれをよく考えて吟味して実践するのが本当の循環器内科医じゃないかと思います。
 これはおふざけです。心臓外科医というのは空から非常に最新鋭の戦闘機を持って、冠動脈にたくさんの栄養、物資を送ってしまう。一気に3本も4本も血液を送って治すことができる。みんな大好きということで、これは我々ができない治療だと思います。それに比べて我々は土建屋です。一本一本地道に血管を掘り起こして、ほんとに宝物を見つけていくような地味な作業じゃないかと思っています。
 今日はどうもご清聴をありがとうございました。(拍手)

手術の痛みを忘れず、血糖値やコレステロールをよくしよう

 南淵先生 せっかくですから会場のほうから何かご質問などありましたら、ぜひお願いしたいんです。菅原先生は手術が終わっても冠動脈の病気が進行するかもしれないということで、そうなって詰まってしまったらカテーテルがあるぞということなんですけども、そうならないようなことで一番気をつけたらいいのは何でしょうか。
 菅原先生 手術が終わって、多分やっぱり痛みがあると思うのでそのときはかなり懲りると思うんですが、大体3ヵ月、半年、1年するとだんだん痛みを忘れて、ついうっかりアイスクリームや、ようかんを食べ過ぎてしまったりする。やはりその痛みを忘れずに、ほんとに地道なことですけどコレステロールや血糖値をよくするということです。ほんとこれに尽きるんじゃないか。あとはいい先生を見つけて、たまにカテーテル検査なんていうのもいいんじゃないでしょうか。