梅垣敬三先生(独立行政法人国立健康・栄養研究所情報センター長) 

2010年5月16日(藤沢市民会館小ホール)

演題「健康食品・サプリメントとのつきあい方」

健康食品は普通の食品であって医薬品ではない

 みなさんこんにちは。私は高校のときに南淵先生と同級です。私の取り柄はまじめだけで勉強はあまりできなかったんです。昨年は変なことからテレビに出て、それがきっかけで今日こういう話をする機会を与えていただきましてありがとうございます。私の話は非常に簡単というか、皆さんにかなり身近な内容となっていますので気軽に聞いていただきたいと思います。
 それでは今日の話の内容です。まず健康食品・サプリメントと、私たちはいろんな言葉で聞きますけれども、実態はどんなものかというのを理解していただきたいと思います。それがまず最初です。次に、使うときに何を重点視するかというところです。必要性を考えるときの注意点。その次が、購入するときの注意点。それから、ちまたにはいろんな情報があります。そのときに参考にしてほしい情報の収集、そして最後に特に注意してほしいという5つのポイントについてお話ししたいと思います。
 中心は健康食品・サプリメントというのは、食品だから副作用がなくて医薬品のような効果があるという夢のようなものに、恐らくかなりの方が思われていますけど、そうではないです。あくまでも健康食品というのは普通の食品であって医薬品ではないです、薬のようなものではないということを理解していただければ、大体私の今日の役目は果たせるのではないかなと思います。

健康食品・サプリメントとは何か・どんなものか

 それでは健康食品・サプリメントというのは何かということをお話しします。私たちはよく健康食品・サプリメントという言葉は聞きますけれども、実は明確な定義は全くありません。ある人はキノコとかニンニクというものを健康食品だと思われています。牛乳とかお茶を健康食品と思われている人もいます。それから非常に医薬品に近いような錠剤、カプセルのものを健康食品と思われている人もいます。これは全く間違いではないのです。定義がないからです。一番問題なのは錠剤、カプセルです。これは実は食品として流通していますが薬とは全く違うものです。それを薬と勘違いして使うというのは非常に問題です。
 ただ、普通の食材を使われるのであればそれほど問題はないです。なぜかというと私たちは嗜好性というのがありますね。好き嫌いがあります。毎日同じものを食べると嫌になります。そうすると特定成分が過剰なまで摂取をすることはまずない。ですから、一番問題なのは錠剤、カプセル。それも薬のように使ってしまうと問題が起きてきます。
 健康食品。これはおさらいです。健康食品とは健康の保持増進に資する食品全般が該当すると考えられる。だからいろんなものが健康食品と言われています。
 次にサプリメントとは何か。実はアメリカのDietary Supplementという明確な定義がされているものがあります。錠剤、カプセル状のものです。
 ただ、日本ではその明確な定義がありません。だからお菓子とか飲料までサプリと言っています。アメリカのDietary Supplementとは違うということです。日本のサプリメントも広い意味では健康食品の一つと考えることができます。
これは非常にややこしいんですけれど、食品と医薬品の分類です。私たちが口の中に入れるもので、医薬品(医薬部外品を含む)以外のものがすべて食品になっています。
 一般に「いわゆる健康食品」というのは行政用語です。そのような一般に言われている健康食品に効能や機能の表示はできません。なぜかというと薬事法違反になる。もし普通の食品に効能、機能を表示してしまうと、恐らく大勢の方が病気を治すために根拠もなく、そのような食品が使われてしまいま。ですから、医薬品のような表示をしてはいけないと解釈したほうがわかりやすいと思います。
 ただ、今は科学技術が進歩して、ある種の食品にいろんな体調調節作用があるというのがわかってきました。それが恐らく皆さんが、聞かれたことがある「特保」と呼ばれる、特定保健用食品です。こういうマークがついて保健の機能表示ができます。でも、なんでもかんでも表示できるわけじゃなくて、必ず科学的根拠があって国の審査・許可を受けて初めて表示ができるというものです。
 それから栄養機能食品。これはビタミン、ミネラルがヒトでの科学的なデータが非常に多いため、決められた栄養機能の表示ができるというものです。これはマークがありません。
 それから特別用途食品というものがあります。子供を持っている人はよくご存じですが、乳児用の調製粉乳です。それから、飲み込むのが大変だという人の、えん下困難者用食品。また例えば肝臓病とか腎臓病の人の食品といった、特別な用途に使う食品があります。これも認められた表示をしてもいいこととなっています。でもこれらは全部国がチェックしています。ここの人形マークとか、かぎ穴マークと言いますが、これらのマークがついているのは国がそれなりにチェックしているものです。栄養機能食品(ビタミン、ミネラル)はあまリチェックしていません。なぜかというとビタミンやミネラルは私たちが1日にどれだけ必要かがよくわかっているから、製品中に含まれていれば良いと言った考えができるからです。
 健康食品と皆さん方が思われているのは、国が表示を認めてコントロールいる「保健機能食品」と、 一般に行政が機能の表示を認めていない「いわゆる健康食品」の二つになるわけです。一番問題になるのはこの「いわゆる健康食品」に該当するもの食品です。この製品には注意してほしいと思います。

食品と医薬品は明確に区別しておくことが大事


 一番最初に言いましたが、食品と医薬品は明確に区別しておくことが必要です。じゃあなぜ区別する必要があるか。これには二つのポイントがあります。まず、食品で病気の治療・治癒ができるという明確な科学的根拠があるかというと、恐らくありません。予防はある程度できるかもしれません。でも治療ができるほどの効果があるのなら、これは逆に非常に問題です。それから科学的な根拠があったとしても、消費者が安全で効果的に利用できる環境が整備されているかというと、これもありません。
 だから健康食品とかサプリメントとかいった製品は、例えば医療関係者、医師がよく見て、これは使ってもいいんだよと言われるのだったらいいんですが、実際そういうものはないし、 一般の人はインターネットやテレビで見て使われている。ちゃんと使われていない。だから普通の食品と医薬品は明確に区別しておかなければいけないと考えていただいたほうがいいと思います。
 では医薬品と誤認したとき、健康食品を医薬品と勘違いしたときに何が起こるのでしょうか。現在行われている治療を放棄して健康食品により治療しようとすると病状は悪化します。これはがん関係の健康食品で多いです。がんというのは、がん細胞を殺さなきゃいけないから抗がん剤は非常に作用が強い。それになかなか耐えられない。そうすると悪い業者が、この健康食品で治ると言ったらそれにすがりついてしまう人がいるんです。そうして、抗がん剤の治療を放棄してしまうと病状が悪化して取り返しがつかない状態になる。これが非常に問題だということです。
 医薬品と併用すると相互作用により医薬品の効果が弱ったり、副作用が増強したりする場合があります。実はここがほとんど今はわからないのです。医薬品と医薬品の相互作用はよくわかっています。この医薬品とこの医薬品を飲むとよくないというのは、かなりチェックできるようになっていますが、健康食品と医薬品の相互作用はわからないのです。なぜかというと、健康食品の品質が非常に不明確だからです。何がどれだけ入っているかがよくわからない。ものすごくいいかげんなものが多く、一つの製品に含まれているものが10種類以上あります。
 それのような製品と医薬品との関係を対応づけるのは非常に難しい。だから医薬品と健康食品を出来るだけ併用しない、それから医薬品と誤認して利用するのも問題だいうことがいえるのです。

健康食品と医薬品の3 つの違い―品質・科学的根拠。利用環境


 では健康食品と医薬品の違いは何かと考えてみましょう。三つの違いがあります。まず第1に製品の品質です。医薬品は同じ品質のものが製造・流通するようになっています。
 何がどれだけ入っているかが非常に明確です。じゃあ健康食品(サプリメントも同じですが)はどうかというと、同じ名称でも全く品質の異なるものがあります。大体安いもの、高いものというように値段で判断されますが、重要なことは品質です。有害物質が入ってないか、ちゃんと表示してある成分が入っているか、それが重要のです。健康食品の場合は、品質と表示が非常にいいかげんなものがあります。ひどい場合は、あるメーカーさん、中小企業が多いのですが、今日作ったものと1カ月後に作ったものでは成分含有量が違うものもあると思われます。ですから、医薬品と健康食品はまず違うものだと理解していただいたほうがいいと思います。
 それから科学的根拠の質と量の違いです。医薬品は病気の人を対象として安全性・有効性の試験が実施されています。病気を治さなきゃいけないですから、その対象者は病気の人でなければいけないということです。では健康食品とかサプリメントはどうかと言えば、病気の人を対象とした試験はほとんど実施していません。ですから病気の人が摂取したら何が起こるかわからないわけです。安全性試験があったとしても対象者は健康な人です。健康な人が摂取して問題がなかったことを調べている場合が結構ありますが、病気の人が摂取して何も問題ないかはほとんど調べていないのです。そのような理由から病気の人が健康食品を摂取するのは勧められないという考えになります。
 それから3番目に利用環境の違いです。医薬品は医師・薬剤師により、安全な利用環境が整備されていますが、健康食品・サプリメントは商品の選択利用が消費者の自由です。食品ですから消費者の自由になっています。そのときにちゃんと問題がない製品が適切に使われているかどうかはわからないのです。
 この三つのポイントから、健康食品と医薬品とは勘違いしないでいただきたいということがいえると思います。

「いわゆる」健康食品、違法製品。無承認無許可医薬品


 健康食品という全体像がありそれは二つに分けられます。まず国が制度を創設して機能表示を認めているもの、根拠があり国が機能などの表示をしてもいいとしているものです。ただし、それは審査をしています。こちらはいいのです。でもこちらの「いわゆる健康食品」というのは、国が機能等の表示を認めていないもの、機能表示ができないものです。例えば、製品が病気に効くとか、そういう表示をしてはいけないことになっています。
 サプリメントというのは栄養機能食品、要するにビタミン、ミネラルで国の基準を満たしたものがあり、これは補助的に利用すれば良いものになります。ただし、それ以外の錠剤、カプセルのもので「いわゆる健康食品」に分類されるものは注意が必要です。
 その中に実は医薬品成分を入れて皆さんに売っている場合もあります。これは無承認無許可医薬品と言って、もはや食品ではなくて違法な製品です。一番多いのは、やせる、ダイエット関係の製品、それからバイアグラという強壮・強精関係の医薬品成分を入れている場合があります。
 よく機能性食品という言葉を聞かれると思います。
 これはある特定成分が入っていたら体調調節作用があると言っている製品全体です。その中で、ヒトでほんとに効果があるかどうかというのを検証し、国が許可している特定保健用食品というものがあります。一方で、それ以外のものはいわゆる健康食品となっています。この機能性食品の中には、例えばハエが長生きする成分だから、ヒトが摂取しても長生きできるんだという、いい加減な製品もあります。まともな製品もあれば、非常にいいかげんな名前の製品もあるのです。私がよく言っているのは、機能性食品というのは、気のせい、気持ちのせい、取って気持ちがいいんだなと思ったら、それはそれでいいという、そんな程度なものだとお話しします。要するにあくまでも食品で、薬ではなく、またその作用も強くはないということです。健康食品はそのようなものと考えて良いのです。

国の保健機能食品制度は医薬品と食品を明確に区別


 これは少しややこしい、国の保健機能食品、要するに国の食品の制度の話です。こちらが医薬品、こちらが食品です。一般には医薬品と一般食品の間を埋めるのを特定保健用食品とか栄養機能食品があると言っていますが、一番重要なのは医薬品と食品の間に明確な区別があることで。どこの国もそうですが、医薬品と食品は明確に区別されています。
 なぜかというと、食品で病気が治るとかそんなことはほとんど検証されていないからです。ですから、根拠がないのに食品に医薬品のようなそういう表示をしてはいけないし、もしそういう表示をするとちゃんとした医療を受けることができなくなる。だからどこの国も食品と医薬品は明確に区別されているわけです。食品の中の保健機能食品では、例外的に、ある程度、国が規制をしながら限定的に表示を認めています。
 特定保健用食品(特保)は欽料でいっぱいありますが、どのようなものかというと、こういう人が背伸びをしているマークが付いているものです。以前は厚生労働省が表示を許可していましたが、今は消費者庁の担当になっています。皆さん方が思われている健康食品とか機能性食品という集合体があるとすると、その中の1点が特定保健用食品です。どこが違うかというと三つのポイントがあります。まず科学的な根拠。体験談では信用できません。ハエで効いたからといってそんなものでは駄目です。必ず明確なデータがないといけない。2番目にヒトにおける有効性・安全性が評価されている。動物で効果があったから、ではヒトが摂取して効果があり、安全であるかが重要ないのです。
 動物の実験は私もよくやっていますが、かなり極端な条件でやります。なぜかというと明確な答えが出ないからです。同じものばかりを動物は摂取しています。だから動物のデータを私たちに外挿すると毎日同じものをバケツいっぱい食べなきゃいけないという場合になっていることもあります。ですからヒトで評価するというのが重要だというのが特定保健用食品の評価のポイントになっているのです。
それから3番目に当該食品でも検討され、摂取量の目安があります。よくいろいろな製品に、この成分が入っているから体にいいと言っていますが、ではその中にどれだけの成分の量が入っているんだと聞いたら、ほとんど意味のない量の場合があります。だからどれだけの量があればその表示してある効果が期待できるかを調べなきゃいけない。それは製品ごとに調べるしかないのです。特定保健用食品は、要するに皆さん方が市場で買う製品のそのものの情報として提供されます。この3つが特定保健用食品の重要なポイントです。

ビタミンやミネラルは科学的根拠があるが、不足している人が利用すべき


 特定保健用食品としては飲料などいろいろあります。例えば血糖値が高めの方に適する食品です。それには「糖尿病の人の商品です」と書かれていない。なぜか。もしそう書いてしまえば糖尿病の人が病気を治そうと使ってしまう、だからそのようには書けないのですと。他にもいろいろな特定保健用食品の製品があります。それらには必ずこの特保マークがついています。
 もう一つ重要な国が機能表示を認めているものに、栄養機能食品があります。これはビタミン、ミネラルだけです。重要なのは身体の健全な成長・発達、健康の維持に必要な栄養成分の補給・補完。要するにビタミン、ミネラルが足りない人が補う目的で利用するのがいいという食品です。
 ビタミン、ミネラルはヒトでの科学的根拠が非常に多いです。ただし、その根拠とは不足している人が摂取したと
きに効果があるというものです。今はほとんどの人が不足状態ではない。ですからほとんどの人は多分それほど必要ないかもしれません。ただ、不足している人が取る意味は非常にあります。自分が不足しているかどうかを考えて摂取することが必要な食品なのです。
 不足している人が取ったほうがいいという事例を示します。横軸は1日のビタミンCの摂取量です。縦軸は血漿濃度、体にどれぐらいビタミンCが保持されたかということです。ビタミンCというのは、私たちは100ミリグラム程度摂取すればよいのです。このように1日に30ミリ、60ミリ、100ミリグラムと、取れば取るほど体の中にビタミンCが保持されます。ところが、あるところで頭打ちになります。なぜかというと、多く摂取しても消化管からある程度しか吸収されません。また、いったん体の中へ入っても腎臓の機能が正常であれば必要のない量は尿中に全部出るんです。およそ400ミリグラム以上を摂取しても意味がないのです。
 国が表示を認めている栄養機能食品は、不足している人が摂取すれば意味があります。でもあるレベルの摂取量を超えれば、摂取する意味はなくなるのです。だから摂取量が少ない人が摂取して下さい、というのが栄養機能食品の考え方になっています。
 食品の基本は安全でおいしいもの、高いものが良いわけではありません。いろいろな名称の食品がありますけれども、食品名と利用対象者には対応があります。病者用食品というのは、病気の人が対象の食品です。乳児用の調製粉乳というのは乳幼児用。大人が飲んでも全然問題ないのですが、もともとは乳児が飲むもととして製造されています。
 えん下困難者用食品というのは飲み込むことがなかなか難しい人が使う食品。では最近話題の特定保健用食品は何だろうというと、これは健康が気になり始めた人で、基本的に病気の人が利用対象ではなりません。
食 品の選択は消費者に自由です。国が審査しているものを取りたいと思われればそれでもよい。食品の基本というのは安全でおいしいもので、高いものがいいわけではない。そういうことを考えて、特定保健用食品や栄養機能食品を適宜選んでほしいと思います。
くれぐれも特定保健用食品を特別な薬のような感じで利用しないでください。
 ある新聞に特定保健用食品は万人に効かないと許可するなと言ったコメントがありました。万人に効くというのは、言い換えたら使い方によっては有害な影響が非常に出やすいということを意味します。そういうものは誰でも自由に利用できる食品としては流通させるべきではないという考え方もできます。ですから効いたか効かなかったかわからない、ひょっとしたら効いているんじゃないかという気のせい、気持ちのせい、それぐらいに考えて、食品とつき合うのが適当と思います。何度も言いますが、あくまでも食品であるということを理解することが非常に重要です。

必要性を考える時の注意点=情報は冷静に判断


 2番目に必要性を考えるときの注意点ということでお話ししたいと思います。これは数年前に出た偽造データです。納豆で減量というのがあって実はうそでしたという話です。この情報が出る前にもいろんな食品が出ています。ココア、黒酢、ブルーベリー、赤ワイン、ニガウリとか話題として出てきました。
 これはブームで、大体効果はないんですよね。(笑)もし効果があったらずっと注目されて残っていくけど、効かないから次々と新しい話題になるのです。バナナダイエットというのがあり、バナナを食べてダイエットするという情報でバナナが市場からなくなるような状態があります。あれだって実際に試したらあまり効果はないはずです。痩せるかどうかは摂取するエネルギーと消費するエネルギーのバランスで決まります。そんな特別なものを食べてやせるということはありません。
 納豆で減量という情報で、ある女性が納豆をかなり買い込んで食べていたけど全然効果がなくて、冷蔵庫の中に納豆があふれて困っていたという話を聞きました。あくまでも食品として使われればいいのです。これらは、食品に何か特別な効果が期待できると過大な期待をしたとき問題が起きるという事例になっています。重要なことは、情報は冷静に判断してほしいということ。テレビ、新聞、雑誌などで取り上げられている情報は必ずしも科学的な裏付けがあるとはいえません。
 マスメディアを通して発表されている情報は、必ず編集という第三者の手が加わっています。専門家の示す内容であっても、それが正確に伝わらない可能性もあるので、これを科学的根拠とするのも注意が必要です。
 以前にあるテレビ局で取材を受けたことがあります。30分ぐらい取材されました。それでどうやって出るんだろうと見てみると、大体テレビ局の好きなところにコメントが入っていました。私が出たのは5秒程度。「そういう情報はありません」、それだけでした。その前にいろいろしゃべっていたのですが全く取り上げられていませんでした。マスメディア情報というのは大体そういう感じで出ているということを理解されればいいと思います。
 それから、情報は現時点の情報だということです。今、科学的な情報と考えられていても、それは現時点での判断基準で評価したもので、将来変わる可能性があります。そういったことも理解しておいた方がいいと思います。昔は病気に効くといっていた成分であっても、その後に調べてみたら全然効果がなかったというのもいっぱいあります。医薬品だといろんなチェックをするシステムがあります。しかし、食品ではそのようなシステムもありませんし、食品で効かなかったと証明するのも難しいのです。大体効果がないというのが多いですが、誰もそれを検証はしていない。食品はあくまでもおいしく楽しく食べていただいたほうがいいということになると思います。

食品の安全性・有効性に対する誤解


 食品の安全性・有効性に関して、一般に誤解されているパターンを二つ示します。まずイメージで捉えられていること。天然・自然ならば安全、化学合成品は危険というのは、正しくはありません。大体調べてみなきゃわからないのです。天然・自然は安全だといろんな商品を売っていますけど、天然の毒素は結構あります。自然の中にもあります。
 では合成品が危ないかというのも正しくありません。よく添加物を非常に毛嫌いする人がいますが、添加物はいろいろな安全性試験が行われています。そのような試験が実施されているものを避けて、天然・自然だったら安全だといって有害な天然物を摂取している人がいます。重要なことは、単なるイメージ、言葉だけで判断するのは正しくはないということです。要するに調べてみなければわからない。調べられているか調べられていないかというのを、安全性・有効性の判断基準にしたほうがいいということです。
 それから2番目です。特定成分の摂取量が考慮されていない。食品中に良いと言われる成分が微量で含まれていても効果があると思ったり、いっぱい入っていても食品だから安全だと思う。これも正しくはありません。要するに微量の摂取量であれば何の効果もないのです。一方で、多量に含まれていれば安全性に問題が出てきます。
 食品はイメージでとらえられています。イメージはいいかもしれませんが、現実的には摂取しようとする食品中にどれぐらいの成分の量が入っていて、それが意味がある量なのか、それから安全なのかというのを考えてほしい。特に健康食品やサプリメントを見るときには、そのような考え方が必要です。

食材の情報と食材中の含有成分情報は必すしも一致しない

 では今から、誤解される情報の三つのパターンを紹介します。まず野菜や果物を取ったらこういう病気になりにくいというのがよく出ています。
 昼の番組で、ある食材が話題になると、もうその夜にはその食材が売れすぎてスーパーからなくなるという状況がよくありました。実はこれは疫学調査といって、ある野菜とか果物を取っている人はこういう病気になりにくい、という科学的なデータがあります。ただし、この野菜とか果物を、これだけの食べ物を食べられないので、その中のこの成分がいいんだと言ってサプリメントとか濃縮物にしてその摂取を勧めている場合があります。それが本当かどうかは調べてみないからわからないのです。
 一番典型的な例は緑黄色野菜に含まれるβ-カロテン(β-カロチン) です。緑黄色野菜を食べる人はがんになりにくいというデータがあります。その中の何かは、ハッキリしていないのに、それがβ・カロテンだと思って、10数年前からいろんな濃縮物として皆さんが飲むようになりました。特に肺がんを起こしやすい、たばこを吸う人、アスベストに曝露された人は心配ですから、そういうかβ-カロテンを濃縮物で摂取するようになりました。でも実際はわからないからといいうことで実際に調べられました。その結果、何と、そういう肺がんを起こしやすい人が、錠剤やカプセルのβ-カロテンの濃縮物を摂取すると、もっとがん化するという、もう全く予想もしない結果になりました。要は調べてみなければわからないということです。
 皆さん方がどうすればよいかというと、何も高価なサプリメント、濃縮物を摂取するのではなくて、科学的な根拠は野菜や果物を摂取したことにあるわけですから、普通の野菜や果物を食べられればそれで十分です。科学的根拠があるのは通常の食材から摂取することなので、それを実践されればいい。何も濃縮で摂取する必要はないということです。
よ くたばこを吸う人が、肺がんになりたくないからと、 こういうβ・カロテンを取ったり、ビタミンCを取ったりしますが、 一番賢いやり方は禁煙です。(笑)禁煙すればもうこんなものを摂取する必要もないし、それば一番安い賢い方法です。それを言われればわかるんだけどなかなか人間はできないという、難しいところはあります。これがまず第1です。要は食材の情報と食品中の特定成分の情報は必ずしも一致しないということです。

原材料情報と商品情報は必ずしも一致しない


 2番目、原材料と商品情報は一致しないということ。最近キノコとかこういう天然物でも科学的なデータが非常に出るようになってきました。そのデータを使った商品が販売されています。大体この商品の中に、科学実験で使われたきれいな成分が入っているかというと保証はありません。ビジネスをやるときは、もうからなきゃいけないですから、良いといわれる成分をいっぱい入れますが、本当にいっぱい入れて問題ないかというのも検証していません。つまり原材料の情報と商品の情報は違うんだよということを理解してほしいと思います。
 この商品の情報はメーカーさんしか持っていません。我々のところに、よく電話をかけてきて、この商品は安全ですか、効果があるんですかと聞かれますが、自分が作ってないからわからないのです。だからこの点には注意してほしいと思います。ちなみに先ほどご紹介した特定保健用食品はこの最終製品として評価されています。だからそれなりに評価できるという食品と言えます。

食べたものがそのままの形態ですべて吸収され、期待する部位に到選するとは限らない

 3番目、食べたものがそのままの形態ですべて吸収され、期待する部位に到達するとは限らない。よく関節にいい食品と、テレビで毎日紹介されていて、 マインドコントロールじゃないけど、皆さんが洗脳されて本当に飲んだら効くんだと思われています。でも、ああいうものを摂取したら自分の関節にそのまま行くことはまずあり得ないです。若干は行きます。でも飲んだものが全て自分の期待する関節に集まることはないです。そういうことも理解していただきたいと思います。
 よくコラーゲンというのがあります。コラーゲンというのは実は消化管からそのまま吸収されません。ですからコラーゲンを飲んだら、そのまま自分のお肌に移動して、肌がきれいになると思われていたら、それはちょっと行き過ぎかもしれません。ただ、それを飲むことによって自分の肌を手入れしようと思われる、その手入れしようとする行為が、自分のお肌をきれいにしている場合もあります。全く否定はできないですが、これさえ飲めば全部オーケーだということではないことを理解していただきたいと思います。
 いろんな良いといわれる食品がありますが、大体私たちが口から取ったものは消化管で一度分解されます。分解されて、また必要な部位で合成されます。コラーゲンもそうです。体の中では消化や代謝を受けますから、食べたものがそのまま自分の体の部位になるということはありません。レバーを食べたらそのまま自分の肝臓になるとかというと、そんなことはない。 一回全部分解されて、必要な成分から新しく自分の体の部分になるわけです。そのような点が非常に誤解されていますので注意していただきたいと思います。

どのような目的でどのように利用するかによって有益にも有害にもなる


 国が認めている保健機能食品は特定保健用食品と栄養機能食品というものです。それらも、誰が、何を、どのような目的で、どのように利用するかによって有害にも有益にもなるわけです。よく、この食品はいい食品、この食品は悪い食品と言いますね。そういった判断は非常にわかりやすい。わかりやすいけど実際はそういうものではないです。例えばビタミン、ミネラルでも不足している人が摂取すれば非常にいいものです。でも十分摂取している人が、さらに摂取しても全く意味がなく、それは無駄です。そういうこともあります。
 だから全部いい、全部悪いということはありません。誰がどういう目的で、どのような製品を、どのように利用するかが、重要です。何回も言いますが、食品を病気を治そうとか治療しようとか、そういう目的で利用するのは間違っていると考えていただいていいと思います。ただ病気の予防はできると思います。予防するというのは時間がかかりますが、それは食品でも十分対応できる分野だと思います。でも、治療まではできないと考えてよいでしょう。そこのところを理解していただきたいと思います。
 また、すべての人に絶対安全なものはありません。例えばビタミンCです。ビタミンCはいくら摂取しても消化管からあまり吸収されないし、体内に吸収されても尿中に過剰な部分は出ます。から安全だと言われています。これは一般的な話です。ここで重要なことは腎臓の機能が低下している場合は注意しないといけないということ。腎臓から排泄されないと、腎シュウ酸症を起こす場合があります。これは非常にまれな場合です。このような事例を紹介したらビタミンCは危ないからと思われる人がいますが、腎臓の機能が正常だったら全然問題はありません。
 知っていただきたいのは、どんなものでも特定の人には問題なものもあるということです。それを考え、安易にこれは安全で問題ないと考えないで、冷静になっていただきたいと思います。ただ、この紹介した事例の場合はアスコルビン酸を毎日2グラム飲んでいました。普通の食品から摂取してこんなに多くの量を取ることはできません。錠剤、カプセルというのは非常に摂取しやすい製品を利用して、こういう影響が出たということです。多く摂取しても何の問題もないと思われている成分ですら、このようなことが起きる可能性があることを理解して頂きたいと思います。
 健康食品やサプリメントは、本当に必要かどうかを冷静に判断することが重要です。必要性の科学的根拠。つまり、誰が利用するかによって有益になるか有害になるかが変わります。何度も言いますけど、ビタミンやミネラルは不足している人が利用すすると有益なことは明確です。これはデータが非常に多い。ただ過剰摂取すると健康被害につながる可能性もあると言うことです。
 セレンというのは抗酸化作用で注目されています。しかし、日本人は海産物を食べていますから、ほとんどの人はセレンが不足することはないです。そういう人が錠剤、カプセルでセレンを取るとセレン中毒を起こす可能性があります。要するに不足している人が、その成分を摂取するというのは意味があります。でも不足していない人が、必要でもないのに、保険的に多く摂取すると有害な影響が出る可能性があることを考えていただきたい。これは非常に重要なことです。

いくら良いといっても過剰摂取は間題


 これは横軸が特定成分の摂取量、縦軸は生体に対する影響です。私たちがいろんなものを摂取していくと、何らかの良い反応が出てきます。ところがある摂取量から有効性は下がってきます。なぜかというと必ず有害な反応も出てくるのです。どんなものでも多く取ったら何らかの悪い効果が出てきます。その悪い影響が、今はわからなくても将来わかる場合があります。
 例えば、レバーの場合、レバーの中にはビタミンAが非常に多い。もし、レバーを毎日毎日三度食べるとビタミンAの過剰症を起こします。でも、いくら好きでもレバーを三度三度食べる人はいません。嫌になります。食品には容積と味とか香りがあります。一方で、私たちは嗜好性を持っています。この両方が影響して、私たちは毎日同じものを食べたくないのです。その結果として、普通の食材から特定成分が過剰な量にまで摂取しない、そして過剰症を起こさないようになっているのです。ですから普通の方はこういう食材からできるだけ必要なものを取っていただきたい。
 一方、錠剤、カプセルというのは必要な成分を効率的に摂取できます。そのため過剰に摂取する可能性があります。ここは注意してほしい点です。このように言うと、じゃあ、錠剤、カプセルは駄目なんだと思われますが、世の中には物が食べられない方がいらっしゃいます。そういう方は、もし不足している成分があれば、それらを錠剤やカプセル状のもので適宜補うということは、意味があります。ですから、これはいい、これは悪いという両極端の判断では、誰が、何を、どうやって使うかによって良い場合もあれば悪い場合もあるわけです。そこのところを理解していただければと思います。いくら良いといっても過剰摂取は問題です。 一つの成分とか一つの効果だけに着目すると無駄な摂取をしたり、有害な影響が出たりするのです。

安全な食べ方は普通の食材から食べること


 一番重要なのは必要なものは食材から取るとのが安全で非常にいいことです。例えば、世の中にはいろんな汚染物質とかあります。一つの食べ物に狂信的に固定し、もしその中に有害なものがあると非常に影響が大きくなります。最近、特定保健用食品でエコナの問題がありました。有害かどうかまだわかりませんが、油はエコナと固定していると、悪い影響が出るかもしれません。でも、ちょっとしか食べてなかったらたとえ有害であったとしてもほとんど問題はないでしょう。油はこれだと固定していたら、当然過剰摂取しますから、もし安全性に問題があるとなれば、その影響も受ける可能性は出てきます。
 食卓にあるもので今はわかっていないけど、そういう有害である可能性があるものは結構あるかもしれません。ですから有害なものをなるべく取らないようにするというのだったら、やっぱり満遍なくいろんなものをバランスよく食べる、そうすれば、その中にたとえ特定の有害物質があったとしても有害な影響を受ける摂取レベルにはならない。だから安全な食べ方は何かというと、普通の食材から食べることで、それが一番安全で、 一番お金がかからなくて健康的だということがわかるのではないかなと思います。
 この図でしめしたようにいろんな食材があります。ニンニクとかキノコというのは食べると、満足感にプラスアルファとして健康効果があるわけです。特定保健用食品でも、食品の形態をしたものは、食べるという満足感にプラスαとして健康効果が期待できるわけです。このような食材で摂取するとだいたい9割ぐらいの人はほぼ食べると言うことで満足していると思います。
 一方、錠剤、カプセルはどうでしょうか。これは食べるという満足感はないです。期待できるのは健康効果だけです。これが得られなければ、摂取して損したと思う人は当然出てきます。ですから、普通の食べ物から摂取し、また何でも、いいと言われるものだったらまあまあバランスをとって食べることが基本だと思います。どうしても錠剤やカプセル状のものを使いたいという方は、その安全で効果的な利用法をよく知っている医療関係者に聞きながら、適宜摂取されればいいと思います。利用を否定はしませんが、食生活の基本がどこにあるかというのを理解していただきたいと思います。

絶対に利用してはいけない製品違法製品は健康被害につながる


 では健康食品やサプリメントを購入するときの注意点。絶対に利用してはいけない製品は違法製品です。医薬品を添加したような悪質な製品です。また、根拠もないのに病気が治るとかいっているのはやっぱりやめたほうがいいです。これは確実に健康被害につながります。標榜されている情報を見て、そのようなことがほんとにあるのと、大体皆さんは最初思われます。これは違法製品の可能性があります。ですから、自分の直感というのを信じていただきたいと思います。
 ここにいろいろ書いてあります、虚偽、誇大な表示という例です。これは国立健康・栄養研究所で出している「健康食品の安全性・有効性情報」のページで詳しく紹介しています。「健康食品」と「安全性」というキーワードをインターネット検索で入力すると、必ずこのページがトップに出るようになりました。そこに詳しく書いてあります。例えば即効性とか、がんが治ったとか、天然・自然と、魅力的な言葉を連ねているのは大体危ない、などといった情報です。魅力的な情報については、一度冷静になって、実際はどうかというのを調べられるというのが一番いい方法だと思います。例えば、糖尿病、がんが治ったと、薬では治らなかった糖尿病が治ると著書などでうたっていたという情報の場合、特許を取っていると製品をアピールしていたのですが、特許は製造の特許で、効能ではなかったということが発覚しています。製造の特許は、効果効能とは全く関係ないことです。また、その製品は、鑑定の結果、効能もなかったことも判明したようです。
 何度も同じような事例が発覚しています。くれぐれも魅力的な文言には気をつけていただきたいと思います。

品質が不明確な製品は避けたい、単なるイメージだけで判断しない


 それから品質が不明確な製品は避けてください。世の中には同じ名称でも全く品質の異なる製品が流通しています。表示されている成分と内容物が異なっていることもあります。多くの成分が入っていると得したような気分になりますが、実はその量はかなりいいかげんだったということもありました。だからイメージだけで判断しないで下さい。 一番重要なのは含有量です。何がどれだけ入っているかというのをチェックしてほしいと思います。
 飲料で医薬部外品と、似たような普通の食品の飲料があります。見比べられたらわかりますが、医薬品は何が何ミリグラムと成分名と量が全部書いてあります。一方で普通の食品の飲料は、エネルギー、タンパク質、脂質、とか、ざっくりとしか書いてありません。そこが医薬品と食品の違いです。
 食品でも、何がどれだけ入っているかが記載されているものがありますので、商品を買うときにチェックされればいいと思います。
これは健康食品やサプリメントの典型的な特徴です。グルコサミンと書いてある。関節が悪い人が関心があるものです。製品に表示するときは多い順番に表示しなきければいけないのですが、この製品のように、○○エキス、××エキス、それからグルコサミンと、これは3番目になっていることがある。3番目に多いということです。でも、表示はグルコサミン。これは売りたいからこういう理由から、このような表示をしている製品があるという事例です。
 20種類以上の成分が含まれているような製品もあります。得したような気分になって買われるのですが、大体入っている成分量は非常にあいまい。入っていないこともあります。もし、成分の含有量とか品質が明確でなければ有効とも安全とも言えません。医薬品と併用したときの相互作用の判断もできない。成分が入ってなければ相互作用は恐らくないと言えます。でも入っているかもしれない。もし、多く入っていたら医薬品と相互作用して、悪影響がでると判断できます。でもその判断する材料が、普通のこのような健康食品にはないのです。
 ですから、健康食品と医薬品の相互作用があるのかないのかと、聞かれても、「いや、わかりません」と言うしかないのです。健康食品やサプリメントはこういう実態なのです。

植物エキスには特に注意が必要です


 天然植物は安全だと皆さんは思われます。しかし、例えばアリストロキア酸といった植物の中の成分は非常に注意しなきゃいけない。なぜかというと、実はこれはがんを起こす可能性があります。このアリストロキア酸は、腎臓障害を起こし、尿路系のがんを起こすことが知られています。昔、ベルギーでやせ薬といういわゆる漢方薬が販売されていて、その中にこのアリストロキア酸を含む植物が含まれ、尿路系のがんを起こすことが、後の研究でわかりました。ですからこういうアリストロキア酸を含む植物についてはいろんなところが国の機関が摂取しないように注意喚起しています。日本で流通している漢方薬などは、そのような有害成分を含むものはありません。しかし、皆さんが例えば中国へ行って、中国何千年の歴史の漢方薬だということで信頼して買われてきたものの中にはこういうものが入っている場合もあります。くれぐれもお土産で中国へ行って素性のわからない漢方薬を買ってきて、誰かに勧めるようなことはやめられたほうがいいと思います。もしこういう問題があとで発覚したら困りますから。
 健康食品と医薬品の相互作用において最も問題となる事例です。何回も言っていますが、健康食品の品質はいいかげんなものが多い。表示されている成分が本当に含まれているかどうかわかりません。
 それから複数の成分が添加されている製品は相互作用を考えるときに多くの対応ができてしまって有害な影響が発現しても、その原因究明は非常に困難です。健康食品で健康被害を受けたという人がいますが、ほんとにそうですか、と聞いてもわからないのです。だから使う側が注意して使うしかないのです。ぜひ注意していただきたいと思います。

科学的根拠に基づく情報。正しい情報を、伝達する人のアドバイスを受ける


 では注意するときの参考情報についてお話しします。これは健康食品の利用のきっかけを、ある研究所が調査したものです。信頼できる情報源は、家族・親類、友人・知人、テレビ、週刊誌、雑誌、インターネットというもの。そして、医療関係者とかはほとんど信頼されていないという結果です(笑)。ちなみに私もほとんど信頼されてないという、非常に悲しい結果です。でも、これが現実です。本当は知っている人に聞いて、この商品は安全か効果が期待できるかを判断し、使いたいのなら使うようにしてほしい。でも、大体皆さんは友人、知人から聞かれています。私が聞いた話ですが、ある人が友人から勧められて健康食品を飲んでいたらアレルギーを起こして湿疹がいっぱい出てきた。そして、どうすればいいんですかと言われる場合があります。「これは私が取っていていいから、あなたもどうぞ」と勧められることがありますが、それは友達関係が壊すことになりかねません。ぜひやめていただきたいと思います。もし勧めるんだったら、「あなたには合わないかもしれないけど」という助言もどこかでつけ加えられないと問題になります。
 いい加減情報にはいろいろな問題があります。それで、科学的根拠に基づく情報、要するにアピールされている効果に実験的根拠があるのかどうかを調べて公開することを始めました。それが私どもがやっている、「健康食品」の安全性・有効性情報の提供で、インターネットの「http://hfnet.nih.go.jp/」というサイトから提供しています。かなり情報も充実してきました。
 ほとんどが有害情報や安全性の情報です。有効性情報といって、有効性を皆さんは見にこられますけれども、大体は「有効性は見当たらない」いう、非常に寂しい気持ちにさせるデータベースになっていますが、これが現実です。何かに効くといっていろんな健康食品に表示している場合がありますが、大体根拠はありません。例えば、ある実験でハエが長生きしたという結果があり、製品にはハエが長生きしたと書かず、老化防止が期待できると書いてある。そうするとその表示を読むほうは、「これを摂取すると長生きするんだ」と思ってしまう。そのような誤解を与える表示もありますので、そこは注意してほしいと思いますそれから、健康食品の利用を考えるときには、正しい情報を伝達する人のアドバイスを受けることが必要です。研究所では栄養情報担当者(NR)という人員を認定しています。 私どもの研究所は国の機関で、養成、認定の両方をすると規制緩和の問題が出るので認定だけをしています。かなりレベルの高い人たちですので、健康食品については、ぜひこのような人に聞いていただきたいと思います。今は4000人ぐらいいます。なかなか取得するのが難しい資格ですので、このような人たちがいることをぜひ周りの人にも伝えてほしいと思います。
 健康食品は食品ですから、全く普通の食品と同じように考え、知識のない人が売っています。そこは問題ですから、ぜひこういう人を使ってほしいと思います。

専門職と消費者の認識のズレ「リスクコミュニケーション」


 これが実際のホームページの画像です。科学的根拠に基づく情報ということで、国内外のいろんな危害情報を1週間に5回か6回出しています。国内外でいろんな違法製品が出回っています。その注意喚起情報を出しています。それから、基礎知識という内容です。私が今日話している内容はほとんどここに入っています。かなり詳しく書いてありますから、ここを見ていただきたいと思います。がん関係の健康食品については、我々も問い合わせを受けますが、なかなか答えるのが難しいです。がんの人は何かにすがりつきたいというのがあります。それを説明するのは難しいのですが、ここの行政機関が発行したパンフレツト集の中に、四国がんセンターと金沢医科大学が作られた非常にわかりやすいパンフレツトが転載してあります。
 そこを見ていただければ現時点で、がんと健康食品の関係がどこまではっきりしているかというのがわかりやすく書いてあります。それらの情報も参考にしてほしいと思います。
 それから話題の成分といって、特定保健用食品とかビタミン、ミネラルに関する情報があります。どういう食品にビタミンやミネラルが多いかというのを出しています。ちなみに、いま話題のα‐リポ酸がここに出してあります。リポ酸は医薬品でも使われている成分で非常にいいんだ、効くと思われますが、問題になることがあります。最近の問題は低血糖を起こす可能性があることです。
影響の受けやすさは人によって違いますが、どうも日本人のある体質の人では低血糖を起こしてしまうことが、最近わかってきました。そういうこともこのページで出しています。
 それから健康食品データベースです。これは、健康食品の原材料の情報を出しています。ここはあくまでも原材料の情報で商品の情報ではありません。原材料に関する科学論文の情報を集めて出しています。340成分ぐらいあります。皆さんがもし健康食品を摂取していて、そこに含まれている成分情報を見たいと思われたとき、この中に今わかっている範囲の情報が出してあります。健康食品の成分と医薬品との相互作用についてもわかっている範囲で情報が掲載してあります。わからない部分もあります。要するに現時点でわかっているのは、ここまでだと言うことを理解して見ていただきたいと思います。
 こちらは専門職、こちらは消費者です。要するに、両者には認識のズレがあるということです。大体こういう専門家というのは、みんなわかっていると思って話をしたり、独り善がりのところがあります。でも実際は、消費者はそれをわかっていない場合があります。ここの溝を埋めるため、リスクコミュニケーションというのが最近叫ばれているわけです。
 その一つとして我々の情報のホームページと、NRなどのアドバイザリースタッフという、ちゃんとした情報を渡す人の役割があります。信頼できる情報とそれを伝える人、この二つで認識のズレを埋めようとしているのが、現在、我々の研究所がやっている取り組みです。

有効性・有害性の両方において情報が課題評価される


 最後に健康食品やサプリメントで特に留意して頂きたいことをお話しします。先ず、有効性・有害性の両方において情報が過大評価される傾向があるということです。見えないものにおびえ過ぎているということもあります。逆に危ないのに何でこんな製品を安易に摂取されるのかと、疑問に思えることもあります。巷の情報を見たり聞いたりするとき、それがどのような条件において認められた現象であるかという点に注目して冷静に情報を判断してほしいと思います。
 どういうことがというと、具体的な内容に注目すること。つまり、誰が、何を、どれだけの量と期間で摂取して、どのような生体影響を受けたかというのを見ていただきたいということです。特に、どれだけの成分量を摂取したかという、量的な考え方が食品にはあまりないのです。ですから、特に摂取量に注目して情報を見ていただきたいと思います。
 例えばレバーの話。妊婦さんが妊娠初期にビタミンAを過剰に摂取すると胎児に奇形を起こします。だから妊婦さんが錠剤、カプセルのサプリメントで、ビタミンAを過剰に摂取したらそれは問題です。でも妊婦さんが妊娠初期にレバーで1回か2回、ビタミンAを過剰に取ってしまった程度では、それは全然問題はないです。ましてやおじいちゃんがビタミンAを過剰に摂取した、程度なら、おそらく有害影響はないと思います。
 情報は、「誰が、何を、どれだけの期間と量で摂取して、どうなったか」とうい点で見てほしいと思います。特にハイリスクグループと言われる人。病気の人、高齢者、妊婦、小児ですが、そのような人はサプリメントを濃縮して取ると何が起こるかわからないので、特に注意してほしいと思います。
 これはウコンの事例です。ウコンというのは胆道閉塞症とか胆石の場合は摂取禁忌といわれています。皆さんは、ウコンは肝臓にいいんだと飲まれていますが、実は肝臓にいいという、ヒトでの証明はあまりないです。ラットではありますが。ウコンがいいというのは、消化不良の改善に効果です。ウコンは胆嚢に働いて胆汁を分泌するのです。そのときに胆道が詰まっていたら胆汁を押し出そうとするのに詰まっているわけですから、疼痛が出てくる、そして症状が悪化する可能性があるということです。でもこういう病気の状況は人によって違います。そのような病気の状況は一般にはわからない。それは、専門医が診て問題があるかないかを判断されると思います。
 ですからこういう特別な人は、ウコンの利用を主治医に告げる、あるいは利用について主治医に相談してほしいと思います。これが基本的な対応です。病気の人が、インターネットで出ている情報や、テレビでコマ―シャルの情報を鵜呑みして、とんでもないことをしないようにしていただきたいと思います。

患者は自分が使っているものを医師に話すこと


 健康食品の医療関係者の対応の調査をすると、必ず確認する、よく確認されるというのはほとんどないです。確認されない場合が非常に多い。病院で医師は非常に忙しいですから、なかなか確認できない。それで使う人が、実はこれ摂取しているんだと医療関係者に話されるだけでいいんです。そうすると、もし何か問題があったときにその情報を医師が聞いて、直ぐに対応ができると思います。そのような情報が何もなければ、適切な対応はできない。だから、息者さんは医療関係者に話して、医療関係者は患者さんに質問するという対応が必要なのです。ですから皆さん、健康食品を使っていたら「これ使っているんだけど」というように、医師の方に告げたらいいと思います。特定保健用食品を医薬品のように思われている人がいます。これはあくまでも食品です。要するに特定保健用食品を乱れた食生活の不安を癒す目的で利用したり、医薬品的な効果を期待して利用すると問題が起きます。これを飲めばメタボも解消と思われることがあるようですが、そんなことは絶対ないと思っても良いでしょう。

現在の食生活を改善するきっかけとして利用することが大切


 じゃあどうやって特定保健用食品などを利用してほしいかについてお話しします。それは、現在の食生活を改善するきっかけ、動機づけとして利用してほしいということです。もしメタボが気になる人なら、先ず糖質を制限するとか脂質を制限するといった、当たり前のことを行ってほしい。
 でも私たちはなかなかそういうことはできませんから、特定保健用食品を使うんだからちょっと今日は運動しようとか、食事中の脂肪を減らそうとか、そういうふうに思われれば、特定保健用食品に効果がなくても、そのような当たり前のことをするという、行動に結びつけば、それはすべての人に効くわけです。
 それから、特定保健用食品の効果はうそではないので、効果が期待できる人はいます。表示されているような方法で摂取していただければ効果が期待できることもあるのです。でもあくまでも食品であることを理解して下さい。今まで使っていたAという食品に置き換えて特定保健用食品を使おうと思われるのが一番いいのです。それは特定保健用食品も普通の食品として認識して使っているということになります。薬のような使い方はしていないということなのです。このような点についても注意してほしいと思います。

健康食品を利用するときのリスクとベネフィツト


 健康食品とかサプリメントを摂取する場合、ベネフィットである健康効果とリスクの両面があります。リスクというのは健康被害、多大な出費をする経済被害です。健康被害はそれほどは起こらないと思いますが、多大な出費をしてしまうという経済被害はよく起こると思います。
 健康効果があるかもしれないし、その体感が得られているという自覚がある人は、注意して摂取されればよい。そのような人は出費をしても健康効果があれば満足できています。でも全然いい体感が得られてないという人は、残るは健康被害か経済的被害だけです。
 健康食品を使うかどうかは、消費者自身が判断しなきゃいけない。自分自身で考えられたほうがいいと思います。以前、「こういう健康食品を取っているが私は全然いい体感が得られないんだけど」、と質問されたことがありました。その時、「あなたは健康効果はなさそうですが、こちらの健康被害や経済被害があるのではないですか、どうしますか」、と聞いたら、健康食品の摂取はやめますと言われました。ある人は、この健康食品を取っていたらものすごく調子がいいと言われる人がいました。その人には、「あなたは出費をしても健康効果が上なんだから注意して使ってください。ただし、いつ、何を、どれだけ摂取したかというメモをとってください」とお伝えしています。
 私も昨日の夜は何を食べたか覚えてないです。普通の人は大体そんなものです。もしメモがあれば、もし問題があったときに、それが健康食品やサプリメントが原因なのか、それとも全く別の原因かがある程度は想定できます。ですから健康食品やサプリメントを利用するときは、それぞれが自分自身で注意してほしいと思います。

健康食品・サプリメントだけでは健康にはならない


 最後に健康食品・サプリメントに対する誤解です。健康食品は、「食品だから薬のように副作用がなく、でも薬のような効果が期待できるという夢のようなもの」ではなく、あくまでも食品です。これだけは今日は覚えて帰っていただきたいと思います。健康食品・サプリメントだけで健康にはなれません。メタボでお腹周りを測られる場合がありますけれども、特定保健用食品を取ったからメタボ解消ということはあり得ません。
 基本的なことは、健康は、ちゃんとした食事をして、運動をして、休養をとる、この3つのバランスで成り立っています。健康食品・サプリメントつて何だろうといえば、この食事の中のさらに小さな1点なのです。食事・運動・休養がケーキであるとすれば、健康食品やサプリメントは、ケーキの上に乗っているイチゴ程度でしかありません。そのような小さなものなのです。その程度のものと理解されて、必要なら使うという考え方で、健康食品・サプリメントとつき合っていただきたいと思います。以上です。ご清聴をありがとうございました。(拍手)